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Vietnam's seafood production

残業時間の可視化から始める
生産性向上のための取り組み

 アフターコロナの経済再開にともなう人手不足や2023年4月からは割増賃金率引き上げ、2024年にはトラックドライバーの時間外労働上限規制など、働き方改革が、待ったなしで取り組むべき経営上の課題となってきています。

 これらの課題は働き方改革と生産性向上の両立が求められ、労働時間は減らしてみたものの生産性がどうなったかわからない、むしろ生産性が悪化したという悩みは多いのではないでしょうか。この難しい舵取りを迫られる経営課題に対して、どのような切り口でアプローチしていけばよいでしょうか。

 本稿では当社が支援し、解決の糸口を見出したクライアントの事例をもとにお伝えしていきたいと思います。

そもそも生産性とは何か

 一般的に生産性は

生産性 = 産出量 / 投入量 = 付加価値 / 生産要素

であらわされ、労働および資本生産要素から付加価値が産み出された際の効率性を測る指標です。産出量を物的な量であらわす場合もありますが、経営管理においては付加価値額であらわすのが一般的ですので前者は割愛します。また生産要素として労働と資本があると記載しましたが、労働力によって生産性を測る場合を労働生産性、資本によって生産性を測る場合を資本生産性といいいます。(本稿では労務管理にフォーカスして話を進めますため、以降では労働生産性を中心に展開し、資本生産性については別の機会に話したいと思います。)

 付加価値額の定義は文脈等によってマチマチですが、中小企業庁方式(控除法)では「付加価値額 = 売上高-外部購入価額(材料費、買入部品費、外注加工費など)」で、経営実務上粗利で据えるのが一般的です。また労働力は総従業員数または総労働時間であらわすことが一般的です。つまり労働生産性とは

労働生産性 = 粗利/総従業員数 = 一人当たり粗利

または

労働生産性 = 粗利/総労働時間 = 時間当たり粗利

を指すことになります。

 さらに加えると一人当たり(または時間当たり)人件費を労働生産性で割ったものを労働分配率と呼びます。この比率が高くなると従業員の給与水準が生み出した付加価値に対して高いことを意味し、逆に低いと付加価値のわりに給与水準が低いことを意味します。しかしながら付加価値は労働だけではなく資本によっても産み出されるものであり、業界によってその水準が様々なため、高ければ良い・低いのがダメというものではないです。

生産性に対する2つの誤解

1. 労働生産性が低いのは仕事の仕方(効率)が悪いため

 我が国の生産性は先進国の中でも低いとされ(図1)、このOECDの労働生産性の比較をもとに働き方改革やDXを論じるシステムベンダーやコンサルタントで溢れかえっています。しかしながら前節でも記載したとおり、労働生産性は付加価値を労働時間で割ったものです。内閣府「日本経済2016-2017」によると、産業変化によって労働生産性が変化することを指摘(図2)しており、特に需要拡大初期と衰退期には生産性が伸びることをあらわしています。これは拡大初期は価格競争力を維持したまま生産を拡大できるために付加価値が高まっていくためです。衰退期ではリストラや統廃合によりマンアワーが縮退することで生産性が高まると考えられます。このように労働者の仕事への取り組み方いかんに関わらず経営起因、マクロレベルでの生産性の高低があることは長年市場に身を置いていると肌身に感じていると思います。

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図1 OECD加盟国の時間当たり労働生産性

出典:日本生産性本部「労働生産性の国際比較2022」

図2 産業のライフサイクルと労働生産性

​(出典 内閣府「日本経済2016-2017第2章」

 もう一点、内閣府が生産性伸び悩みの要因として短時間労働者比率の高さを挙げています。我が国の労働参加率は女性の就業が2013年頃から上昇(図3)したこともあり高水準を維持しています。しかしながら就業にあたっては社会保険の第3号被保険者、いわゆる「130万円の壁」 もありパートタイムとして働く傾向が高く、それら短時間労働者は一般労働者と比べて相対的に技能習得にかける時間や費用が小さいとされています※1。そしてその国際比較を見てみると(図4)、短時間労働者比率が高まった国で労働生産性が伸び悩む傾向がみられます。また2023年にノーベル経済学賞を受賞したハーバード大学のクラウディア・ゴールディン教授は、Goldin(2014)※2でMBA、法律、薬学の学位の卒業生のデータを調べ、長時間労働になりやすい職業ほどそうでない職業よりも時間あたりの生産性が高くなることを実証しています。

 このように労働者各々の仕事の仕方(効率)にかかわらず、産業構造や職種、雇用の柔軟性によって労働生産性の高低は決まり、また雇用の柔軟性と労働生産性はトレードオフの関係にあることから、各々の最適解を選択することが求められます。

​※1 内閣府「日本経済2016-2017 第1章 日本経済の現状とデフレ脱却に向けた動き(第3節)

​※2 Goldin Claudia (2014) “A Grand Gender Convergence: Its Last Chapter,” American Economic Review 2014, 104(4): 1091–1119

図3 女性就業者数の推移

(出典:内閣府男女共同参画局「男女共同参画白書 令和4年版 」)

図4 短時間労働者比率と労働生産性の国際比較

(出典:内閣府「日本経済2016-2017 付図1-6」)

2. 中小企業の生産性は大企業と比べて低い

 中小企業の生産性は大企業と比べて低いとされ、そのことが我が国の生産性の低さを語る際の枕詞ともなっています。事実中小企業庁「中小企業白書 2023年版」によると、大企業の労働生産性の中央値が1,099万円なのに対し、中小企業では540万円となっており、中小企業の労働生産性が低いことが見てとれます。

 これを業種別に細分化すると製造業のような資本型産業では労働生産性の格差が大きいのに対し、労働集約的な非製造業では労働生産性に大差がないことがわかります(図5)。さらに非製造業の労働生産性の累積分布(図6)を見てみると、約3割もの中小企業が大企業の労働生産性の平均を上回っており、資本と標準化により生産性を高める大企業に対し、属人性独自の強みで大企業に打ち勝つ中小企業もあるのです。

図5 企業規模・業種別労働生産性

(出典:中小企業庁「中小企業白書 2023年版 第1-1-74図」)

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図6 大企業の労働生産性を上回る中小企業

(出典:中小企業庁「中小企業白書 2016年版 第 1-3-4図」)

生産性の高い企業は何が違うか

 前段で大企業に負けない生産性の高い中小企業があると述べました。ではどのような企業が大企業に負けない生産性を叩き出しているのでしょうか。図7は生産性が大企業以上の中小企業とそれ未満の中小企業を比較した表です。生産性が大企業以上の中小企業はそうでない中小企業と比べて情報処理・ 通信費が2倍高く、積極的なIT投資が重要であることがわかります。

 では高い生産性を誇る企業ではどのようなIT投資における取り組みを行なっているのでしょうか。図8は高収益企業と低収益企業別にIT投資時に行った取り組みの実施状況です。低収益企業では、ルールの見直しや各部門へのヒアリング、研修など言わずもがな重要と考える取り組みが不十分であることがまず目立つポイントです。これらは運用プロセスにおいて顕在化しがちで、導入したITツールが使われないといった声はクライアントからもよく聞きます。さらに着目したいのが「ITの段階的な導入・ 導入後のモニタリング」です。ITツール導入のメリットとしてデータが容易に取得できることがあげられますが、ツールを導入したことに満足してしまい、そのメリットを享受できていない企業は数多くあります。

図7 生産性の高い中小小売業の特徴

(出典:中小企業庁「中小企業白書 2016年版 第 1-3-15図」)

図8 高/低収益別IT投資の効果と取組の実施状況

(出典:中小企業庁「中小企業白書 2016年版 第 2-2-14 図」)

まずは残業時間を可視化せよ

 前置きがかなり長くなりましたが、本稿の主題である残業時間をなぜ可視化するかについてです。高収益企業はITツール導入後モニタリングをしていると述べた通り、数値化が高収益企業への道です。図8はITツールを導入している業務領域の割合で、人事領域は収益に関わらず高いIT導入率となっています。しかしながら成果が見られない企業があるということはその取り組み方に問題があるということです。人事領域のITツールはその業務利用者の業務効率化だけでなく従業員全体のモニタリングに役立ちます。特に生産性の代理指標たる残業時間のモニタリングは生産性を把握し改善するための一丁目一番地です。残業時間はすでに導入済みのシステムで基本的に標準で取得可能な指標のため、追加投資が不要です。

​ 図9は当社のクライアントで実際に残業時間可視化を行った結果です。サービス運用部だけ突出して高く、法定労働時間上限(月60時間)で張り付いていることがみてとれます。一方営業部門はほぼ残業をしていません。つまり営業が受注してきた業務の割にサービス提供の人手が足りていません。さらに残業規制があるため、サービス運用部の人手不足を理由に受注を見送っている可能性があることを示唆しています。営業の受注は間に合っている一方で、サービス提供が追いついていないことがわかるのです。つまり残業時間を可視化することで、業務上のボトルネックの把握人員配置の最適化につなげることができます。

図9 部門別に残業時間の可視化を行った

いかがだったでしょうか。

労働時間の可視化に興味を持った方は下記より資料請求お待ちしております。

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